春秋(3月12日) 2025年3月12日 0:00 [会員限定記事]
- 羅夢 諸星
- 3月12日
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男性だけながら衆院選で初の普通選挙が行われたのは、昭和に入ってまもない1928年のことだ。これに出馬したのが菊池寛である。すでに文壇の大物で有名人。本人も相当に自信をもって臨んだという。が、あえなく落選する。定数5人の東京1区で7番手だった。
▼悔しかったのだろう。「敗戦記」と題した随筆で、敗因を分析している。出馬のタイミングが遅かったこと。自身に対する新聞の論調が冷たかったこと。そんな理由に加えて目を引くのが「選挙ブローカーなどの勢力が、絶大であると云(い)ふこと」と書いている点だ。選挙は真っ正面からの訴えだけで戦うものではない、と。
▼SNSでの偽情報拡散や、他候補を推す「2馬力選挙」。そんな光景を、作家ならどう眺めただろうか。「選挙ってこれでよかったか?」と、苦いものを感じがちな昨今だ。政治活動や表現の自由と、規制との兼ね合いは確かに難しい。ただもはや放置できまい。対応の検討が国会で進むという。実効策に知恵を絞らねば。
▼作家の負け惜しみは、妙な理屈へと向かう。「(自分の得票は)本当の清くしかも教養ある一票で、文化的に云へば、一票よく他の数票に比敵するものだらう」。軽口の類いではあろう。とはいえいささかいただけない。票数にしても馬力にしても、誰もがひとつずつ。昔も今も変わらず、それが公平な選挙の原点のはずだ。

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