<産経抄>地図と現実の誤差、石破新政権を待つ難題 2024/10/2 05:00
- 羅夢 諸星
- 2024年10月2日
- 読了時間: 2分
「眠狂四郎」などの剣豪小説で知られる柴田錬三郎のもとを、作家の吉行淳之介が訪ねてきた。男女の性を通し人間の生を描き続ける吉行が、次は「鼠(ねずみ)小僧」を書くという。ついては時代物の急所について講義を願いたい、と。
吉行淳之介の結婚相手は誰ですか?
芥川賞作家の故吉行淳之介の妻文枝さん(80)が、没後10年を機に回想記「淳之介の背中」を6月8日に出版する。 出会いから別離までの十数年の生活を淡々とつづった。 これまで文枝さんが夫について公に語ることはほとんどなく、初めて明かされる初期作品の創作の背景なども盛り込まれている。
▼江戸を舞台にするのなら、江戸の町を頭の中で歩けるようにならなければ―。「柴錬」先生はそう助言した。吉行は勧めに従って、鼠小僧のいた時代の古地図を買い求めたそうである。作中で描いた街並みは、地図を忠実に再現したものだという。
▼日本の針路を正しく示すべきこの人は、どんな地図をお持ちか。第102代首相に選ばれ、新政権を発足させた石破茂氏である。自民党では長く「党内野党」の立場にあり、時の内閣への直言も辞さなかった。トップに立ち、眺める地図と現実の間には〝誤差〟もあるだろう。
▼総裁選では、国民に判断材料を提供するのが首相の責任だと語っていた。そこから一転し、「27日投開票」の衆院選を明言したのには驚かされた。臨時国会は9日までと短く、十分な論戦はできないと言われている。公約のほごになりはしないか。
▼政治とカネを巡る国民の不信感を拭うのは容易なことではない。デフレ克服を目指す経済政策はどうなる。安全保障政策にしても、石破氏の掲げる「アジア版NATO」と実際のアジア情勢の間には、隔たりがある。現実との誤差があまりに大きい地図では、使い物になるまい。
▼古地図といえば立川談志さんも江戸の街並みを詳細に記憶し、落語の語りに生かした。「そういう部分がなければ『江戸の風』は吹かない」と。さて石破首相である。新政権は追い風を受けるというのが政界の常識だが、世論の風が期待通りに吹くとは限らない。
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